- 令和8年 2月 14日
- 全国女性税理士連盟
- 会長 奥田 よし子
所得税法第56条及び第57条の廃止要望書
所得税の所得金額の計算上、生計を一にする親族に対して支払われた対価が適正である限り、これを経費として認め、これを受け取った親族の収入とするべきである。
全国女性税理士連盟は、今日における社会経済実態を踏まえ、持続的で公平な税制の構築を目指し、所得税法第56条及び第57条の廃止を強く要望する。
【理由】
1.制度の内容と趣旨
所得税法第56条は、不動産所得や事業所得などの計算上、同一生計親族に支払う対価(給与、地代家賃、支払利息等)については、これを経費とせず、一方これを受け取った親族の収入とはしない旨を規定している。
本規定は、昭和25年(1950年)に制定された。その立法趣旨は、「個人事業は家族全体の協力のもとで家族の財産を共同で管理使用して成り立つものが多く、家族に支払われた対価をそのまま経費として認めると、個人事業者がその所得を恣意的に家族に分散して税負担の軽減をはかるおそれが生じ、また適正な対価の認定を行うことも実際上困難であるため租税回避行為防止のために設けられた」ものであった。
また同法第57条は、第56条の規定を前提として、その事業に「専ら」従事する同一生計親族への対価については、一定の要件のもと「専従者給与」として経費とすることを認めている。第56条により、第57条に規定する専従者給与以外、同一生計親族間の取引については、一方の経費も他方の収入も一切認められない。
2.社会経済情勢・働き方の変化
本規定の制定後75年が経過し、家族のあり方や産業形態も変化し、夫婦が独立して財産を所有・管理・処分することや、別々の事業主として事業を営むことも珍しくなくなった。同一生計親族間といえども、それぞれが独立した事業者として適正な対価を授受することは、正当な経済活動であって恣意的な所得分散には当たらないはずである。それにもかかわらず、それぞれが個人事業者であり独立した納税者となっていても、同一生計親族である限りは一方の経費も他方の収入も認められない。しかし事業主体が法人の場合には、その経費も収入も不相当でない限り認められる。事業主体が個人か法人かによって認められる経費及び収入の範囲が異なるのは極めて不公平である。
また今日、副業や兼業が推奨されているが、専従者給与を受けている親族はその事業に専従することが要件となるため、働き方の自由な選択ができない。
一方、中小零細事業者の人手不足は深刻であるが、生計を一にする親族によるアルバイトの対価を経費にすることも認められない。所得税法第56条は、もはや社会経済の実態にそぐわない時代遅れの規定となっている。
3.国連女性差別撤廃委員会からの勧告
世界の主要国では家族従業者の労働の対価も経費と認めている。2016年に続き2024年においても国連女性差別撤廃委員会は、女性の経済的自立を妨げる所得税法第56条を改正すべきことを日本政府に勧告している。税務を専門とする女性の立場から、ジェンダー平等の観点において問題のある税制の見直しが放置されていることは、容認しがたい。
4.基本規定による適正な対応を
2014年の法改正により、適正な記帳や記録保存が全事業者に義務化されている。立法趣旨である納税者の租税回避行為の防止や適正対価の認定については、もとより所得税法第37条《必要経費》、同法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》が基本であり、これらの規定により対応できるものである。
「適正な対価を認定することの困難性」についても、今日においては、経済取引の市場化、普遍化により、対価は基準化し、個別具体の対価についてその適正な対価と比準することは難しいことではなく、第56条を廃止しても適正な所得計算は可能である。
社会経済の実態にそぐわないとともに働く個人の自由を妨げる第56条を存続させる意義はなく廃止すべきである。その当然の帰結として、多くの制約の下で事業専従者に対する給与の支払を認めている第57条も不要となる。


