- 令和7年 4月 12日
- 全国女性税理士連盟
- 会長 奥田 よし子
配偶者控除・配偶者特別控除の廃止要望書
配偶者控除は、片働き世帯の妻のいわゆる内助の功への配慮として昭和36年(1961年)に扶養控除から独立して別個の所得控除として設けられ、昭和62年(1987年)には妻のパート労働に対する配慮として配偶者特別控除が設けられた。しかし、今日においては、社会経済の構造が大きく変化している中で、配偶者控除等は、就業調整の要因となり、女性活躍推進を阻み社会的経済的な損失をもたらしている。
全国女性税理士連盟は、以下の理由により配偶者控除等の廃止を強く要望する。
【理由】
1. 税制は、憲法における両性の本質的平等と夫婦の協力扶助義務を本旨とすべき
憲法第24条は「家庭生活における個人の尊厳と両性の本質的平等」を定めている。これに立脚して、民法は夫婦間における協力扶助義務(民法第752条)を定めている。
夫婦間に関係する税制は、内助の功や扶養を基調とするのではなく、対等な立場の夫婦の協力扶助を本旨として構築されるべきものである。
2. 働き方や家族の形が大きく変化した今日、課税の公平を欠いている
昭和55年(1980年)と令和5年(2023年)を比較すると、配偶者のいる世帯における共働きの割合は36%から72%に増えている。一方、配偶者のいない未婚・単身世帯の割合が20.8%から38.0%に、ひとり親世帯数は240万世帯(6.3%)から500万世帯(9.0%)に増えており、働き方も家族の形も大きく変化している。
今日においては、配偶者控除等は、配偶者のいる片働き世帯のみを優遇しており、課税の公平性を欠いている。
3. 「意識の壁」として就業調整の要因となっている
令和元年(2019年)の改正により配偶者特別控除の適用範囲が拡大されたが、制度が複雑化し、納税者にはより理解しにくいものとなった。このため、「103万円の壁」が納税者の意識の中に残り、「意識の壁」として就業調整の要因となっていた。
就業調整は、女性本人の経済的自立を阻害し、社会における女性活躍推進を阻むのみならず、国内の労働力不足をもたらし、GDPの引下げ要因となるなど、社会的経済的な損失を生じさせている。
令和7年度税制改正により、納税者本人の基礎控除額ならびに給与所得控除額が増額され、所得税の非課税枠は、給与所得者の場合年収160万円まで引き上げられた。これに伴い、配偶者控除の対象範囲も20万円引き上げとなったが、依然として従来の「意識の壁」の解消に繋がるものではない。
女性が就業調整を意識せず、尊厳と誇りをもって生きられる社会の実現のためにも、働き方の選択に中立的な税制が求められている。
4. 少子化対策に資する税制を構築すべきである
我が国喫緊の課題である少子化問題については、あらゆる施策を総動員して対応しなければならない。子育て世代の可処分所得を増加させることは有効な施策の一つである。近年、労働環境の多様化に伴い、転職や非正規雇用割合が増えており、所得が不安定となるため結婚や出産を控える原因にもなっている。配偶者控除等を意識せず働くことができれば、所得を増やすことにつながり、少子化対策にも有効である。
5. 年末調整事務の過重な負担を強いており、プライバシー保護の観点からも問題がある
年末調整では、配偶者の年間所得の見込額を基に配偶者特別控除を計算することとなる。このため、実際の所得金額が見込額と異なると再計算をしなければならず、計算も複雑で、事務負担が増大している。
また、配偶者の年収などの個人的な情報を勤務先に開示しなければならないことは、プライバシー保護の観点からも問題がある。
結論
以上のとおり、多くの問題がある配偶者控除等については、これを廃止するとともに、人的控除を体系的に見直し、基礎控除を増額すべきである。